日本は今年の夏も
“冗談はよせ”というレベルの途轍もない暑さに見舞われており。
夏休みまで一番最後組だろう小学生なぞは、
まだ通学期間内だった頃合いから既に、
猛暑日の中を通学してもいた訳で。
「どういうんだろうな。
この、モロに温暖化の影響出てますって気候の中で、
昔どおりの行事が組まれてるのってよ。」
さすがに丸々二カ月も休みにすると
学習範囲をどう圧縮するかで先生方が困りもするんだろうが、
“そんなもん“ゆとり教育導入”をちゃらにして、
土曜の半日登校を復活させりゃあ解消すんじゃね?”
などと。
他でもない当事者なのに、
子供ならまずは嫌がるだろう“お休みの日の解消”を
当然ごととして思いつくよな、何とも合理的な坊っちゃん。
夏休みといや、
年上のお友達のお兄さんたちの
夏休みを上げてのアメフトの鍛練に
鬼軍曹としてお付き合いするのが毎年のセオリーだったが。
今年はその出端でまず、
別行動を取ったという変則ぶりであり。
「…ロンドンは涼しかったのになぁ。」
晩なんて20℃行かなかったりもすんだぜ?
湿度も低いしよ。
さすがスーツが定番で構わない国だよなぁと、
妙な方向から関心してみたりしたように。
商店街の福引で当てた航空券や宿泊券を使っての、
ロンドン五輪観戦ツアーに、まずはと出掛けた妖一坊や。
半分はお友達のセナくんを、
そちらのお友達、進さんに逢わせてあげるための遠出であり。
もう半分は、
コネも伝手も山ほどあるお父さんが
『観戦ツアー? 今からでも楽勝だぜ』なんて言ってたのへの
ちょっとムカッと来たまんまの意趣返し。
自分らは勝手に出向くからと、別行動が取りたくてのお出かけで。
『大人げねぇのな。』
『おうさ、俺りゃまだ子供だし。』
子供二人だけでの旅はさすがに危ないのでと、
引率担当に指名した葉柱のお兄さんへ、
そういう可愛げのない言いようをしたものの。
ご陽気なお祭り騒ぎに集いし皆様と、
子供離れした英語力にてあっさりと馴染んでいた末恐ろしさを発揮しつつも。
開会式の壮麗さや水泳と柔道を1日ずつ観戦した興奮とは、
素直に堪能もしてらして。
「で、セナ坊とは向こうで別れて来たんか?」
「おお。桜庭が責任もって日本へ帰るまで預かりますってサ。」
何も夏休み中の全部を、ドイツ合宿でつぶす彼らじゃないらしく。
高等部も同じ古城ホテルで合宿を張るらしいので、
それと入れ替わり、八月の始めには戻ってくるのだとか。
「でもなぁ、欧州で合宿っての、
ブルジョアだからってだけじゃない
意味のあることなんだなぁって、つくづくと思ったぞ俺は。」
向こうではさらりと着こなせたTシャツも、
こっちじゃあたちまち肌へと張り付く。
そうかと言って肌出しまくりのランニングじゃあ、
「俺、赤くなるばっかだからサ。」
「あー、そりゃあ困るよな。」
昨今では子供も日焼けには注意するのが当たり前で、
何しろオゾンホールの破壊が半端じゃない…とかいう四方山話はともかく。
もう既に日本へ帰還していた子悪魔様。
お土産の紅茶パックは女子マネに任せ、
何でか炭酸煎餅を皆のおやつにと配りつつ、
そういった土産話を振り撒いており。
「ところで、ルイさんはどうしたんだ?」
一緒に出掛けて、一緒に戻って来たんだろうに。
妖一坊やだけが姿を現していて、
肝心要めなキャプテンの方は姿が見えない練習場だったりし。
何げなく訊いた二回生ラインのお声へ、
「……さぁな、年寄りの末までは知らねぇ。」
「???」
何だそりゃと聞き返しかかったの、
振り払うように立って行ってしまった坊やを見送り、
「言わないのは武士の情けだよな。」
「まぁな。」
こちらさんにはこそり事情が知らされているらしい
双璧ことツンさんと銀とが苦笑をこぼす。
―― 時差ぼけと暑気あたりとはねぇ
涼しかったロンドンから、一転、途轍もない蒸し暑さの日本で戻ったことと、
一応半日は時差のある国への行き来をしたがため、
タフさには自信があったらしいあの葉柱が、
なのに、帰国してすぐ枕から頭が上がらなくなったのだそうで。
“喧嘩とかバイクのライディングとか、
何よりアメフトなんてなハードなもんはこたえねぇくせによ。”
俺だって向こうじゃいい子でいたもん。振り回してねぇもん。
なのに、顔色悪くして ぐらんて膝つくなんてよと。
具合が悪くなった瞬間を目の当たりにしたものか、
不安を押し隠しがてらの悪態をつく坊やであり。
金髪頭にかぶった麦ワラ帽子は、女の子用のカンカン帽。
それのつばを引っ張って、不機嫌なお顔を隠した坊やだったのへ、
“…油断も隙もない国だ、なんて脅されちゃあなぁ。”
アメリカと張るほど、
愛らしい小さい子には危険な関心持つ奴が多いと聞くし、
日本人の子供なんて格好の標的らしいぞ、なんて。
どこで仕入れたものなやら、
そんな根も葉もなさげな話を誰かさんから吹き込まれた総長さんとしては。
自分でも確かにかわいいと思っている坊やたちを引率したのが、
よほどに大変な大仕事だったらしくって。
“いい子でいたのに、悪いことしたよな。”
一応はと大事を取った風通しのいい自室のベッドに横になり、
向こうで撮った写メの数々を、携帯から移したタブレットへ呼び出して。
五輪グッズのバッジを幾つもくっつけたジャケット姿のや、
ビッグベンやら開会式会場やら、
名所をバックに記念写真を撮った笑顔の数々、
熱さましの妙薬がわりに眺めておいでの葉柱さん。
男臭いお顔が、時折くすすとほころぶ辺り、
本当にいい子で通したらしい妖一くんだったようで。
夏はこれからです、仕切り直して楽しくお過ごしくださいませね?
〜Fine〜 12.07.31.
*暑中お見舞い申し上げます。
結局 結構観ている五輪中継で、
おかげさんで昼間は、
暑いこともあって、まったく使いものになりません。
ロンドンの晩は涼しいそうですね。
五輪観戦も時差ないワケだし、しかも涼しいしだなんて、
うらやましいなぁ…。
めーるふぉーむvv
*

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